ビザとボク その2 ~カリブの島国で日本食レストランマネージャーだった頃の話~

2020年4月4日(土)

昨日投稿した通り、若いころ僕は在日外国人向け英字フリーペーパー出版社に広告営業マンとして勤務しており、外国人向け不動産会社、国際電話カード会社、飲食店、免税店等を中心にいろんな業態の英字広告に携わっていました。

お好み焼きチェーン店の訪日外国人向けの英字広告を作る際、訪日外国人にヒアリングしたところ、当時はまだ「Okonomiyaki」という食べ物の認知度が低く、「Japanese Pizza」とか「Japanese Pancake」みたいな表現で広告を作っていたのを覚えています。2020年の現在では「Okonomiyaki」や「Takoyaki」は世界中の日本食ファンに広く知れ渡っていますが、15年ぐらい前までは、まだまだ認知度が低かったんですね。

ここ数年世界中で大ブームになっているラーメンですが、少し前までは一部の欧米人観光客から、「麺がすすれない」「音を出して食事することが下品」という声が少なからず出ており、訪日した欧米人観光客が行きたい飲食店としてはあまり上位に挙がっていなかったんです。ラーメンが一般に浸透して、人気ラーメン店に観光客が殺到しだしたのは、やっぱり一風堂がニューヨークに進出した2008年以降の事になるかと思います。

さて、この頃休みを使って中南米を旅行した時に、いろんなご縁がきっかけで、僕の次のキャリアとなったのは、なんとカリブ海ジャマイカにある日本食レストランでした。

「カリブ海ジャマイカで日本食??」って思うかもしれません。僕も最初はそう思っていたのですが、旅行時に食べてみた握り寿司が想像以上に美味しかったんです。サーモン、マグロ、ハマチ、タイ、などの魚介類や乾物、調味料等はマイアミから空輸と船便で調達するルートがあるため、アメリカ本土と食材面で遜色はありません。

お客さんのほとんどはローカルの富裕層のジャマイカ人。面白いのが、日本の食のトレンドを追っているのではなく、当時のニューヨークの食のトレンドにアンテナを張っているんですね。わかりやすくいうと、やっぱりアボカドを使ったCalifornia Rollとか、鰻をつかったEel Roll、サーモンとチーズを使ったPhiladelphia Rollとかが人気でした。

一方、生魚が苦手な食のコンサバティブなお客さんでも、馴染みのあるサーモンの握りからスタートして、だんだん握り寿司を好きになっていく方もいて、面白いもんだなあと思っていました。

さて、食材の調達もでき、日本食を食べたいお客様もいて、あと必要なのは、お店のメニューのクオリティを担保できる日本人シェフ、ということになります。僕はマネージャーとして、日本人シェフの採用、ビザ申請、そして入国後の家や携帯の手配などを担当していました。

日本、ジャマイカを問わず外国人に就労資格をあたえるということは、自国民の雇用を奪う可能性があり、本当に必要な人材なのか慎重に審査されます。毎週末満席になるほどの人気店で、多くのローカルスタッフを採用していた事もあり、ジャマイカ国民の新規雇用を創り出すためには、外国人である日本人シェフの採用が不可欠であることを労働省に説明し、必要な書類を用意し、申請する。

言葉にすると簡単そうですが、そこは日本と違うジャマイカ、なかなか思い通りにならないことも多く、大変なことばかりでした。今考えると、普通に東京で平和に、のほほんと暮らしていた20代の自分が、いきなりカリブ海のジャマイカの日本食レストランでビザ申請に係るのだから、まあそりゃ強烈なカウンターパンチを食らうだろうな、と。

東京で外国人相手に使っていたブロークンな英語も、相手に通じることは通じるのですが、実際に人が動いてくれないと仕事として意味がありません。コミュニケーションは言語が30%、ボディランゲージが70%、という事を体感したのもこのときでした。ジャマイカ人とわあわあ言いながら、ある程度英語力を身につけたため、いまだに僕の英語はジャマイカ訛り、とよく言われます。また英語だと声も大きく、ボディランゲージも無意識に出てきます(笑)

前述のとおり、想定外のトラブルも多かったですが、飲食未経験の自分にとっては学ぶことばかりでした。どれほど繁盛店が日々努力することで、その対価としてお金をいただき「美味しかった」と喜んでもらっているのか。これ、どこの業界も一緒だと思うのですが、自分が関わらなければ、体感することができなかったことでした。

働いている日本人もジャマイカ人も人生経験豊富でバイタリティのある方が多く、毎日の賄いも美味いかったし、何よりもジャマイカ人からの評判もよかったので、このお店で働いていたことは今でも誇りに思っています。

ジャマイカの話もまだまだたくさんあるので、またこれも別の機会に。

Sushi Restaurant

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