ビザとボク その6 ~築地と寿司とインバウンド~

2020年5月11日(月)

ベトナムホーチミンでの駐在時代の話、ビザとボク その5 ~ベトナムとタイとインドネシア~の続きから。

「インバウンド」という仕事の軸で「英字メディア」「日本食レストラン」「グローバル人材事業」と携わってきた僕が、ベトナムから帰国、前職を退社し、しばらくのリハビリを経て、次に選んだ職場が東京すしアカデミーという、寿司を専門に教える調理学校でした。

開校当初は「目で盗んで覚えろ」が当たり前の業界から、「寿司を金払って学校で習うのかよ!」という厳しい声もあったようです。ちなみにさらに昔まで遡ると、調理師専門学校も「学校で金払って料理覚えるのかよ」という声が少なからずあったそうな。

調理師学校もそうであったように、寿司の学校である東京すしアカデミーも時間の経過とともに少しずつ業界に認められはじめ、僕が入社した頃にはそれなりの知名度になっていました。

10代から業界入りしないとなかなか受け入れてもらえない特殊な世界に、脱サラした方、海外起業の志望者、寿司職人になりたい女性、といったような新しいカテゴリーの方にも門戸を開けたという意味で、職人の本流とは言えないかもしれないですが、人材不足に悩む寿司業界に一石を投じる意味で、一定の社会的意義のある学校であったと、一緒に働いていた僕としては自負しています。

さて、上記の通り、いろんなタイプの日本人が入学してきたのですが、僕が過去の経験上もっとも興味を持っていたのが、「外国人」が「訪日」して「寿司」を「英語」で習う、というプログラム。

創業当初から、外国人参加者は一定数いたのですが、年々増えていく外国人参加者向けに2015年から、築地のメインストリートである晴海通りと新大橋通りの角にあるビルの2階で、英語で外国人シェフ向けに寿司を教えるコースをスタート。僕の入社が2016年だったので、この外国人向けコースのスタートアップの段階からあれこれ携わり、途中から事業の責任者としてのべ300名以上の外国人の入学、受け入れを行いました。

2006年に全世界の日本食レストラン数は2.4万店でしたが、2019年には15.6万店まで激増。もちろん、この世界的な需要に追いつくための寿司職人の供給は間に合っておらず、この日本食を作っているシェフのほとんどは外国人。

海外における日本食レストランの数

出典: 海外における日本食レストランの数
2019年12月13日
農林水産省 食料産業局 食文化・市場開拓課

テレビでも世界でローカライズされた日本食をおもしろおかしく放送する番組があるのですが、一部の向上心の高いシェフは、日本食や寿司へのあくなき探求心から訪日し、日本でオーセンティックな(正統な)日本料理を学ぶ機会を探しているのでした。

しばらく前にイタリアやフランスに料理留学した日本人料理人が、日本に帰国後、本物の味を日本に知らしめたように、日本で寿司や和食を勉強した外国人の料理人が母国に本物の味を伝える、そんなトレンドが本格化してくるフェーズのタイミングで入社でき、社長以下、温和で柔らかい社風であったこともあり、大きい裁量権をあたえてもらって自由に仕事をさせてもらったことは本当にありがたいことでした。

300名ぐらいの外国人の内訳は、欧米、アジア、北米がそれぞれ30%ぐらいで、その他が10%程度。寿司シェフ歴30年以上という経験者もいれば、包丁も触った事がない、という未経験者も。

とにもかくにも、なかなか個性の強い生徒さんたちの入学確定後、短期滞在ビザの手配から、宿泊施設のお世話、そして卒業後のキャリアの相談まで、いろんな対応を引き受けていたのですが、そんな中、向上心のある生徒からの要望で多いのが「日本で働きたい」という声。

外国人シェフでいくら日本料理の経験があっても、日本国内の日本料理店で働く場合、いわゆるシェフビザ(技能ビザ)はおりない。しかも、日本語能力はあいさつ程度というレベルの生徒がほとんど。

はっきりいって、針の穴を通すような難しさではあるのですが、ワーキングホリデービザでの就労や、日本料理を海外に正しく普及・発信できる人材の育成を目的として、外国人料理人が京都市内の日本料理店で働くことができる「特定伝統料理海外普及事業」などを活用して、就労している外国人の方はゼロではない。

今後、訪日外国人が増加していく中で国内の飲食店で外国人が働くチャンスは絶対に増えるだろうし、この生徒たちの要望になんとか応えられないだろうかと思い、行政書士試験を受けようと思いたったわけです。
(ここまで読んでくれてありがとうございます!)

すしアカデミー時代にはもうひとつ新規事業として、一般の訪日観光客向けに「寿司握り体験事業」をローンチしていたのですが、この話は長くなりそうなので、また別の機会に。

下の写真は、2017年、寿司アカデミー築地校の前にて。2か月コースの卒業式の日に寿司を教えるインストラクターの先生たちと僕と、生徒のみなさん。

Tokyo Sushi Academy

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